祓戸王子

伏拝王子を過ぎると道は再び地道が続き、本宮町九鬼で小辺路と合流する。小辺路との合流点にはかつて関所があり、茶屋が設けられていたことから三軒茶屋跡とも呼ばれる。尾根伝いの道を進んで最後の坂を下りきり、団地の中を抜けて、やがて小さなドーム状の樹叢が見えてくる。この樹叢に守られるように立つのが祓戸王子(はらいどおうじ、史料によっては「祓殿」「祓所」などの別表記あり)である。ここから本宮大社の旧社地まではわずかな距離し かなく、本宮参拝の直前に身を清める潔斎所としての性格を帯びていたと見られる[13]

江戸時代の神社誌『南紀神社録』には王子社と天神社が現在地にあったと伝えており、さらに『官幣大社熊野坐神社年表』には、1907年(明治40年)に摂社産土田神社を末社祓戸天神社に移したとあり、社の性格は定まらない。旧くは樹叢そのものが潔斎所としての性格を帯びていたものが、王子社に転じたものと考えられる[14]

木立の左側には、明治初期まで医王寺という寺院があった。『愚記』10月16日条に、発心門を発った後鳥羽院一行の到着を待つ間に休息をとった地蔵堂の跡地である。現在では、道の傍らにある石仏がわずかにその痕跡を伝えている[15]

  • 所在地 田辺市本宮町祓戸1077