尾崎喜八【山の絵本】より

思い出を残して歩け。

全ての場所について一つひとつの回想を持つがいい。

それは他人から奪い取ることなしにお前が富む唯一の方法なのだ。

冬の都会の意地悪い夜々に、

それは忽ち(たちまち)至福の光を纏ってお前のに現れ、

悲しい落魄(らくはく)の時に、

優しかった母や姉らのように、

お前の傍らへ来て、

過ぎ去った日の数々の幸福でお前の心を暖めるだろう。